2018年01月28日
雄勝釣行 スピンオフストーリー
その日、雄勝で釣りをしたおれは帰りを急いでいた。
期待していたほど釣れずに、「もう少し・・」、「あと一匹釣れたら・・」と粘ってしまったからだ。
夜10時をまわると、堤防にいた数人のアングラーはいつの間にかおれ一人になり、
おれ一人なのに、ふと誰かがいる様な・・・。
「もう帰ろう・・。」
夜の堤防に一人でいることに怖気づいたおれは、
得体の知れない何かに怯えながら焦ってタックル一式を車に放り込み
エンジンをかけて、普段はしたことがないドアロックをすると、闇に包まれた漁港から逃げ出した。
海沿いをはなれ、峠のトンネルを抜ける頃には、車内の暖房も効いてきて安堵した気分に包まれた。
さっきまでの背筋が冷たくなる気持ちがなくなった途端にぼんやりと眠気がきた。
「いかんいかん・・」と思った瞬間。道端から子供が飛び出してきた!
ギャギャギャギャッ!!!!
車から飛び降りたおれは子供に
「危ねべやっ! 飛び出してっ!」
自分の不注意をよそに怒鳴ってしまった。
「ごめんなさい、おんちゃん・・」
「いや、こっちも不注意だった、悪がったナ・・、ケガねがったが?」
転んだ少年の汚れを払いながら、体を起こしてやった。
「あっちでユッキ・・弟の声したがら・・」と渡ろうした道路の反対のの方を指した。
「何したのや、こんな夜遅ぐに・・?」
「ユッキ、ズック片っぽ流されで探しさ行ったんだげど、まだ帰ってこねくて・・」
「弟、春から学校に上がっからって、新しいズック買ってもらって・・それ片っぽ見つかんねがら
お母さんに怒られるど思って探しさ行って・・・まだ・・・」
「ンでももう遅いがら、一回家さ帰ったほいいぞ」「どごや家?乗せで行ぐが?」
「おんちゃん、釣りこさ行ってきたの?」おれの心配をよそに少年は無造作に積んだ釣り竿を見ていた。
「釣れだ?」
「いや・・ネウっこ何匹がしか釣れねがった。」少年相手にとぼしい釣果を告げるのが恥ずかしかった。
「オレ、お父さんの竿ででっけぇネウ釣ったごどあるよ! 40センチ・・いや45.・・50センチ以上のネウ!」
「そうが、すげえナ。」子供といえど釣師は見栄をはるモンなんだな・・。
「今度おんちゃんにも、釣れるどご教えっから。 あっ!お父さんの船に乗せでもらえばいっぺ釣れるよ!」
「ンが。ンでまず、いえさ乗せで行っから・・」と言った途端、
「あっ!ユッキの声だ!」「おんちゃん、ほんでね!」と少年は走って行った。
「おう・・。」
おれはあっけにとられた様に闇の中に走って行った少年を見送った。
「なんだったんだや・・。」
車に乗り込んでウーロン茶をひとくちゴクリと飲んだ、気持ちを落ち着かせたあとで車を走りださせた。
すると、土手沿いの交差点にはお地蔵様・・・、その道路の下手側には大川小学校があった。
「でっけぇネウ」か・・・。
橋を渡りながら、ハンドルから手を離して、そっと手を合わせた・・。
少年が釣ったアイナメは、きっと本当に50センチ以上あったにちがいない。
その脇では、弟のユッキが「兄ィちゃん、デッケェ!デッケェ!」と喜んでいたにちがいない。
Posted by へっぽこ釣り師 at 06:30│Comments(0)
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